家具転倒防止の L 型金具をせっこうボードに直接留める:ボードアンカーを 1 本から 3 本にしても引抜き耐力は 1.08〜1.15 倍
家具の転倒防止をしたいのに、壁はせっこうボードで、ちょうどよい位置に柱がない。そのときよく選ばれるのが、ボード用のアンカーで L 型金具を面材に直接留める方法です。1999 年の日本建築学会技術報告集に載った実験は、この留め方をそのまま引っ張っています。9.5 mm のせっこうボードでは、アンカーを 1 本から 3 本にしても最大引抜き耐力は 32.5 kgf から 37.4 kgf、1.15 倍にとどまり、鋼製アンカーでは 1.08 倍でした。先に壊れたのはアンカーではなくボードです。著者らが示した実用値は、3 本留めの金具 1 か所あたり約 30 kgf でした。読了まで約 9 分。
寄せられた質問
2013 年 2 月、「教えて!住まいの先生」(Yahoo!知恵袋のシステムとデータを利用)にこんな質問がありました。 家具の転倒防止をしたいが、壁はせっこうボードで「ちょうどいい所に柱がありません」。 壁の表側に横木を 2〜3 本取り付け(横木は壁裏の柱に留める)、その横木に転倒防止金具を留めるつもりだが、それでしっかり補強できるか、という内容です。 補足では、天井が吊り天井なので突っ張り棒は向かず、L 字金具かワイヤーを考えていると書かれています。
ベストアンサーは一級建築士の回答で、補強板と壁の中の下地材をしっかり留めること、せっこうボードの壁でも中には必ず柱や間柱があり、 間柱は普通 45.5 cm、ときに 30.3 cm 間隔で入っていることを挙げています。ほかの回答も多くは下地の探し方と長いビスでの留め方で、突っ張り棒で十分という専門家以外の回答も一つありました。
どの回答も下地の探し方や下地への留め方の話で、質問の裏にある疑問には触れていません。柱がどうしても見つからない、あるいは家具の天板の位置に柱がないとき、 金具をアンカーでボードに直接留めたら、どれだけ持つのか。 柱が見つかった場合のビスの長さは、当サイトの せっこうボード 2 枚張りの下地に効かせる:40 mm のねじは柱に約 10 mm、102.5 kgf。70 mm で 270 kgf で実験データをもとに書きました。この記事は柱以外、つまりボード用アンカーだけに頼る場合を扱います。
実験の条件
阪神・淡路大震災のあと、「家具の転倒防止対策に関する検討委員会」が設けられ、その実験ワーキングの主査が東京大学生産技術研究所の中埜良昭氏でした。 1999 年の報告は、まず家具頂部を壁内部の桟や新たに取り付けた横木に緊結するのが推奨される方法だと述べたうえで、 それが難しい状況もあるとして、L 型金具を壁の面材に直接留めた場合の耐力を測っています。
| 項目 | 条件 |
|---|---|
| 壁 | 集合住宅で多い乾式壁、木造胴縁 45×36 に面材を釘打ち |
| 面材 | せっこうボード 9.5 mm(JIS A 6901)または化粧合板 4 mm |
| 金具 | 市販の標準的な L 型金具、脚長 90 mm・幅 18 mm・厚さ 2 mm、片脚 3 穴 |
| アンカー | 市販の強化プラスチック製拡張式アンカー、鋼製拡張式アンカー。せっこうボード用は合板用より大きい |
| 本数 | 1 本(折れ曲がり部に最も近い穴)または 3 本 |
| 試験 | 単純引抜き、繰返し引抜き、斜め引抜き(約 17.7°)、せん断。各 2〜5 体 |
斜め引抜きの角度は、高さ 182 cm・奥行き 58 cm の洋ダンスを想定し、倒れかけたときの対角線の角度から決めています。 なお、英文要旨ではボード厚が 9 mm、本文と試験体図では 9.5 mm で、ここでは本文に従いました。
どちらのアンカーも中空壁用で、ねじを締めるとボードの裏で開いて裏面に当たる形式です。製品名は書かれていないため、 以下の数値は「当時市販されていたこの 2 種類」の結果であり、特定の品番に当てはめることはできません。
3 本にしても、せっこうボードでは 1 割前後
| 面材 | アンカー | 1 本 | 3 本 | 3 本÷1 本 |
|---|---|---|---|---|
| せっこうボード 9.5 mm | プラスチック製 | 32.5 | 37.4 | 1.15 |
| せっこうボード 9.5 mm | 鋼製 | 30.0 | 32.3 | 1.08 |
| 合板 4 mm | プラスチック製 | 26.8 | 53.3 | 1.99 |
| 合板 4 mm | 鋼製 | 47.0 | 82.2 | 1.75 |
せっこうボードでは、3 本にしても最大耐力の増加は 1 割程度で、論文は本数を増やすことによる耐力の増加は「あまり期待できない」としています。 一方、厚さ 4 mm の合板では 3 本で 1 本の 1.75〜1.99 倍になりました。合板のほうが半分以下の厚さなのに、同じ種類のアンカー 3 本で比べると最大耐力はせっこうボードの 1.4〜2.5 倍です。
違いは、どこが先に壊れるかにあります。せっこうボードにプラスチック製アンカー 3 本の場合、最終的にはボードが破壊しました。 鋼製アンカーは最大耐力のあとの低下が大きく、著者らは、強固なアンカーが早めにボードを局部破壊させていくためと考えています。 3 本のアンカーの間で荷重がどう移ったかは測られていません。記録されているのは結果で、せっこうボードではアンカーを 2 本増やしても最大耐力は 1 割前後しか増えませんでした。
合板では、1 本目が耐力を失う前に隣のアンカーが効き出すため、3 本で 2 倍弱になります。 プラスチック製アンカーは最終的にねじの抜けを伴ってアンカーが抜け、合板の破損はわずかでした。鋼製アンカーでは合板が破壊しています。
変形 5 mm で区切ると、金具 1 か所約 30 kgf
最大荷重が出る変形量は組合せによって異なり、合板では 8 mm 以上引いてから最大値が出るものもありました。 著者らは、アンカーの抜けが大きいと家具と壁の緊結度が下がり、家具のロッキングが増幅されるおそれがあるとして、 大変形時の最大耐力ではなく、変形 δT を 5 mm に制限した範囲での最大耐力を採るべきだとしています。
| 面材 | アンカー | 単純引抜き | 繰返し引抜き | 斜め引抜き |
|---|---|---|---|---|
| せっこうボード 9.5 mm | プラスチック製 | 36.2 | 40.0 | 32.8 |
| せっこうボード 9.5 mm | 鋼製 | 32.3 | 32.6 | 32.1 |
| 合板 4 mm | プラスチック製 | 38.3 | 40.7 | 36.3 |
| 合板 4 mm | 鋼製 | 59.9 | 58.9 | 52.6 |
5 mm で区切ると、4 組のうち 3 組が金具 1 か所あたり 32〜38 kgf に収まり、合板+鋼製アンカーだけが約 60 kgf でした。 斜め引抜きは単純引抜きより低く、比は 0.89〜0.99、論文の表現では低下は 10% 程度以内です。繰返し引抜きは、0〜2 mm で 2 回、5 mm で 2 回繰り返したあと終局まで加力する方法で、 5 mm 以内の最大値で比べると単純引抜きとほぼ同程度(比 0.98〜1.10)でした。
まとめでは、3 本アンカー留めの L 型金具の引抜き耐力は、実用的には 30 kgf 程度を想定できるとしています(約 294 N、当サイト換算)。 これは金具 1 か所あたりの値で、家具の天板の左右に 1 か所ずつなら 30 kgf が 2 か所です。
せっこうボードの鋼製アンカーは、最大値のあとに落ちる
平均値だけ見ると、せっこうボード上の 2 種類のアンカーの差は 4 kgf 以下ですが、荷重-変形曲線の形は違います。 鋼製アンカーは 1 mm 程度の変形で耐力低下が始まり、繰返し載荷ではその低下が「著しい」と書かれています。 プラスチック製アンカーは 5 mm までは単純引抜きとほぼ同じ曲線で、3 本留めでは大変形時の耐力低下が 1 本より小さくなっています。
地震では金具は 1 回だけ引かれるわけではありません。この実験の繰返しは 0〜2 mm で 2 回、5 mm で 2 回という手順で、5 mm 以内の最大値は単純引抜きとほぼ同じでした。違いが出たのは最大値のあとです。 論文のまとめは、せっこうボード+鋼製アンカーは繰返し試験・斜め引抜き試験とも 1 mm 前後の最大耐力以降の低下が大きいこと、 合板は 5 mm 以降も耐力が上がることを挙げ、乾式壁面に固定する場合は「合板への固定が望ましい」としています。
これは、プラスチック製のほうが常に優れるという意味ではありません。各 1 種類の市販品、それも 1999 年当時の製品の結果です。 読み取れるのは仕組みのほうで、せっこうボードではアンカーが面材より硬すぎると先にボードが壊れ、アンカーの強さは生かされません。
下部固定:せん断は大きいが、大変形時の値
| 面材 | アンカー | 1 本 | 3 本 | 3 本÷1 本 |
|---|---|---|---|---|
| せっこうボード 9.5 mm | プラスチック製 | 46.1 | 95.1 | 2.06 |
| せっこうボード 9.5 mm | 鋼製 | 49.0 | 69.9 | 1.43 |
| 合板 4 mm | プラスチック製 | 76.7 | 122.3 | 1.59 |
| 合板 4 mm | 鋼製 | 104.5 | 182.0 | 1.74 |
家具の下部を金具で留め、面材に平行な力を受ける場合です。せん断方向では、せっこうボードでも 3 本で 1.4〜2.1 倍になりました。 3 本の場合は加力側から最も離れたアンカー付近を中心に回転し、L 型金具の曲げ剛性の大きい方向に力がかかるため、隣のアンカーが効き出すと説明されています。
ただし、これらの最大値は変位十数〜四十数 mm の大変形時に出たもので、著者らも実用には繰返しや斜め加力への配慮が必要としています。 また本文とまとめでは、せっこうボード+鋼製 3 本を 65 kgf 程度としていますが、表 6 は 69.9 kgf で、原文の中で食い違っています。表は表 6 に従いました。 上部の引抜きと下部のせん断は別々に試験されており、上下を同時に留めた試験はありません。表 6 のせん断耐力を天板側の引抜き耐力にそのまま足すことはできず、上下を併用したときに下部がどれだけ分担するかもこの実験からは分かりません。
振動台でも、壊れたのは取付けねじ
2007 年、東京大学の目黒公郎氏らは日本地震工学会論文集に振動台実験を発表しています。木製ブロックを家具に見立て、市販のチェーン式と L 字金具式の転倒防止器具を付けて揺らしたところ、 事前の材料・器具の強度試験と同じく、取付け用の木ねじが引き抜けて転倒防止の効果がなくなりました。
条件には注意が必要です。木製ブロックは実物の家具より軽いため、重量比を考えて付属品より小さい木ねじを使った縮小試験です。 掲載された結果は壁面が合板の条件で、せっこうボードの壁も同様に検証したとありますが、結果は載っていません。 ここから言えるのは、振動台でも転倒防止器具が効かなくなった原因は「取付けねじの引抜け」だった、ということです。 中埜氏らの試験でも、記録された破壊は面材の破壊かアンカーの抜けでした。2 つの実験を合わせると、弱点は金具と壁の接合部にあり、実際の耐力は面材とアンカー・ねじの組合せで決まります。
柱が見つからないときの判断手順
1. まず、本当に柱がないか確かめる。 質問への回答によれば、一般的な木造住宅のせっこうボード壁には柱や間柱があり、間隔は多くが 455 mm、ときに 303 mm です。 間隔が規則的なら、幅 45.5 cm を超える天板の背後にはたいてい 1 本はある計算です(当サイトの推算)。軽量鉄骨下地や実際の起点の位置は回答の範囲外なので、叩いて音を確かめる、施工資料を見るなどして現場で確認してください。見つかったあとのビスの長さは せっこうボード 2 枚張りの下地に効かせる:40 mm のねじは柱に約 10 mm、102.5 kgf。70 mm で 270 kgf を参照してください。
2. 柱が天板の位置にないなら、質問者の案どおり横木を先に付ける。 2 本以上の柱か間柱にまたがる横木をしっかり留め、金具はその横木に留めます。金具の後ろがせっこうボードではなく木になるので、 上の表の 30 kgf は当てはまりません。この方法の耐力は論文では測られていません。中埜氏らが論文の冒頭で推奨としている方法でもあります。
3. どうしてもボードに留めるなら、金具 1 か所を約 30 kgf と見込む。 9.5 mm のせっこうボード、3 本アンカー、変形 5 mm 以内の実用値です。最大値は 1 割ほどしか増えませんが、 プラスチック製アンカー 3 本の試験体は大変形時の低下が 1 本より緩やかだったので、当サイトとしては 3 穴とも留めることを勧めます(データにもとづく当サイトの提案で、論文が示した施工指針ではありません)。 市販のアンカーは面材の厚さで寸法が異なり、実験でもせっこうボード用は合板用より大きいものでした。適用板厚は製品の説明に従ってください。
4. 面材の種類を確かめる。 施工資料などで面材そのものが合板と分かれば、実験では 4 mm 合板のほうがせっこうボードより有利でした。 3 本で 1 本の 1.75〜1.99 倍、鋼製アンカーなら 5 mm 以内で約 60 kgf です。論文も乾式壁では合板への固定を勧めています。 せっこうボードの裏に合板を下張りした複合壁は試験されていないので、この数値はそのまま使えません。
5. 背が低く奥行きの深い家具ほど、斜めの角度が大きくなるので別途評価する。 17.7° は高さ 182 cm・奥行き 58 cm の洋ダンスから決めた角度で、家具の形状から決まる角度がこれより大きい場合は別途考慮が必要と書かれています。試験はこの 1 つの角度だけで、低減係数は示されていません。
この記事のアンカーはボードの裏で開く中空壁用で、コンクリートに打つあと施工アンカーは別の種類です。コンクリートのアンカーについては あと施工アンカーは何 kg まで吊れるか、 せっこうボード自体を下地に留める規定は規範が許すねじの本数は、釘より少ないにまとめています。
このページから言えないこと
30 kgf で自分の家具が持つかどうかは、この実験からは分かりません。論文が測ったのは金具の耐力で、地震時に家具が金具に加える力は計算していません。 その力は家具の重さ、縦横比、収納物、階数、地震動によって変わります。 数値は 9.5 mm の単層せっこうボード、45×36 の木造胴縁、1999 年当時の市販アンカー 2 種類と L 型金具 1 種類、各 2〜5 体の結果です。 12.5 mm ボード、二重張り、軽量鉄骨下地、ほかのアンカー製品は試験されていません。 繰返し試験は 0〜2 mm で 2 回、5 mm で 2 回という特定の手順で、任意の地震の繰返しを代表するものではありません。せん断の最大値は大変形時の値で、せん断では繰返しや斜め加力の試験もしていません。 17.7° 以外の角度は試験されていないので、低減の度合いを自分で外挿したり、上下の固定の耐力を足し合わせたりはできません。 振動台実験は縮小試験で、掲載結果は合板壁のものなので、せっこうボード壁の震度の目安には使えません。
この記事は手順 1、相手材を扱います。全体の順序は相手材、ねじ、頭部、駆動部、表面処理、書類で、これを崩すと微調整ではなく手直しになる理由はねじの決め方にあります。
よくある質問
転倒防止の L 型金具はせっこうボードに直接留めてもよいですか?
留めることはできますが、持てる力は限られます。中埜ほか(1999)の実験では、9.5 mm のせっこうボードに 3 本のボード用アンカーで L 型金具を留めた場合、変形 5 mm 以内の引抜き耐力は約 32〜36 kgf で、著者らは実用上 1 か所あたり 30 kgf 程度を想定できるとしています。先に壊れるのはボードです。
せっこうボードでアンカーの本数を増やすと強くなりますか?
引抜き方向ではあまり変わりません。同じ実験で、アンカーを 1 本から 3 本にしても最大引抜き耐力は 1.08 倍(鋼製)〜1.15 倍(プラスチック製)でした。4 mm 合板では 1.75〜1.99 倍です。ただしプラスチック製 3 本は大変形時の低下が 1 本より緩やかだったので、当サイトとしては 3 穴とも留めることを勧めます(論文の指針ではありません)。
せっこうボードの壁で柱が見つからないときはどうすればよいですか?
2 本以上の柱か間柱にまたがる横木を先に留め、金具はその横木に留めます。一般的な木造住宅では下地の間隔は多くが 455 mm、ときに 303 mm なので、横木を長めにすれば届きます。位置は現場で確認してください。ボードにしか留められない場合は、金具 1 か所を約 30 kgf と見込んでください。
参考資料
- 中埜良昭・掛川誠一・高橋廣志・渡辺伸介(1999)— 家具の転倒防止用金具の耐力に関する実験的検討、日本建築学会技術報告集 第 7 号、57–62(J-STAGE 全文)
- 目黒公郎・吉村美保・伊東大輔・佐藤芳仁(2007)— 市販の家具転倒防止装置の効果に関する実験・数値解析的検証、日本地震工学会論文集 7(4)(J-STAGE 全文)
- 教えて!住まいの先生(2013-02-06)— 家具の転倒防止をしたいのですが、壁は石膏ボードでちょうどいい所に柱がありません
- せっこうボード 2 枚張りの下地に効かせる:40 mm のねじは柱に約 10 mm、102.5 kgf。70 mm で 270 kgf — 柱が見つかったあとのビスの長さ
- あと施工アンカーは何 kg まで吊れるか:同じ M10 で、ETA 上の許容引張は 4.1〜9.5 kN
- 規範が許すねじの本数は、釘より少ない
中埜ほか(1999)の PDF は古いスキャンで文字データが崩れているため、6 ページを画像化して目視で確認し、表 2〜表 6 は拡大して照合しました。英文要旨の板厚(9 mm)と本文(9.5 mm)、本文のせん断値(65 kgf)と表 6(69.9 kgf)には食い違いがあり、本文と表に従っています。kgf から N への換算(×9.8)は当サイトの計算です。
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