溶融亜鉛めっき高力ボルト:トルク係数値は全数が規定内、それでも道示はナット回転法

道路橋示方書と鉄道構造物等設計標準は、溶融亜鉛めっき高力ボルトについて特別な規定を置いています。トルク法ではなく、ナット回転法で締めること。2020 年の土木学会論文集に載った統計調査は、鉄道・運輸機構と橋梁製作会社 7 社のめっき高力ボルト F8T 1,038 本の製品検査証明書を集計しました。トルク係数値は平均 0.126〜0.129、最小 0.115、最大 0.143 で、全数が規定値 0.110〜0.150 に収まっています。証明書の数字は合格で、規準が警戒しているのは証明書の外にあるものです。読了まで約 6 分。

亜鉛めっき鋼板を締結するボルトと、ずれた合いマークの赤い角度弧

めっき F8T には自分の JIS がない

F8T は摩擦接合用高力六角ボルトの等級で、規格は JIS B 1186 です。溶融亜鉛めっきを施した F8T には独立した JIS がなく、 論文によれば JIS B 1186 の規定値を準用し、各製造会社が国土交通大臣の認可を受けて販売しています。規定値は耐力 640 N/mm² 以上、 引張強さ 800〜1000 N/mm²、トルク係数値 0.110〜0.150、めっき付着量 550 g/m² 以上(HDZ55)など。座金はめっき時のなまし効果で硬さが下がるため、下限が別に定められています。

規準がナット回転法を求める理由

道示と鉄道標準は、めっきボルト F8T をボルトの塑性域で管理するナット回転法で締めるとしており、弾性域で管理するトルク法は適用しません。 論文が挙げる理由は二つで、めっき部材とめっきボルトのめっき厚のばらつきによって導入軸力がばらつくこと、そして リラクセーションによる軸力低下が大きいことです。

施工は一次締め(鉄道標準では M16 が 100 N·m、M20・M22 が 150、M24 が 200)でなじませ、マーキングしてから本締めでナットを 120° ± 30° 回します。これはボルト長が径の 5 倍以下の場合で、それを超えると予備試験によります。角度の考え方は 角度法:あの角度はどこから来るのかに書きました。

1,038 本のトルク係数値

調査対象は製品検査証明書で、鉄道・運輸機構と橋梁製作会社 7 社の工事で使われたボルトと実験用ボルトの計 346 データ、1 データが 3 本の平均なので 1,038 本分です。

めっき F8T のトルク係数値(論文表-3、製品検査証明書)
径データ数平均最小最大標準偏差
M16720.1270.1160.1430.0047
M20330.1290.1190.1420.0047
M221780.1260.1150.1420.0058
M24630.1280.1180.1350.0032

平均値は規定範囲のほぼ中央で、最小値は下限より 0.005 高く、最大値は上限より 0.007 低い値です。ボルト長との明確な相関はありません。 さらに、あるボルト製造会社のトルク係数値は、径によらず 0.120 未満でした。

整った数字を軸力に直すと

同じトルクなら、軸力はトルク係数値に反比例します。証明書の最小と最大で換算すると 0.143 ÷ 0.115 = 1.24、 同じトルクで締めても、0.115 のロットは 0.143 のロットより 24% 大きな軸力になります。M22 だけを見ると平均 0.126、標準偏差 0.0058 で、 ±2 標準偏差は 0.114〜0.138、およそ ±9% です。これらは当サイトの換算で、証明書の数値だけを使っています。

証明書のトルク係数値はそのボルトセットの製品検査の値です。規準が警戒するめっき厚のばらつき(ボルトだけでなくめっき部材も)や締付け後のリラクセーションは、 この数字には入っていません。証明書が整っていても、トルク法で十分に正確だとは言えず、規準は角度で管理する道を選んでいます (一つのトルク値は、ある摩擦条件の組を前提にしています)。

ボルトを指定する人へ

先に締付け方法を決める。トルク法を使うなら、締付けトルクはめっきボルト自身のトルク係数値から決め、めっきなしのボルトの表を流用しないこと。 それでもめっきとリラクセーションによるばらつきは残ります(規定トルクで締めても、締付け力が合っているとはかぎりません)。

証明書はそのロットのものを見る。同じ規定範囲内でも、製造会社によって系統的に低め・高めに寄ることがあります。供給元やロットが変われば、トルクを確認し直す理由になります。

このページから言えないこと

JIS B 1186 を準用する国内の F8T の証明書統計で、ISO の強度区分や他国の規準にはそのまま移せません。軸力の換算は証明書のトルク係数値だけを使い、 現場のめっき差やリラクセーションは含みません。めっき高力ボルトの水素ぜい化はこの論文では扱っていません(錆びなかったが折れた)。

この記事は六つの手順のどれか一つには収まりません。手順をまたいで出てくるか、組み付けたあとに出てくる話です。ここに行き着く判断がどこで下されているかはねじの決め方にまとめてあります。

よくある質問

溶融亜鉛めっき高力ボルトはトルク法で締めてよいか?

道路橋示方書と鉄道構造物等設計標準は、めっき F8T をナット回転法で締めるとしており、一次締め後に 120° ± 30°(ボルト長が径の 5 倍以下)回します。めっき厚のばらつきによる導入軸力のばらつきと、リラクセーションによる軸力低下の大きさが理由です。

めっき高力ボルトのトルク係数値はいくつか?

2020 年の統計調査(1,038 本の製品検査証明書)では平均 0.126〜0.129、最小 0.115、最大 0.143 で、規定値は 0.110〜0.150 です。ある製造会社は径によらず 0.120 未満でした。

参考資料

論文は全文を読み、規定値、データ数、トルク係数値、機械的性質の数値は原文どおりです。論文の表ではトルク係数値の単位が「(kN)」と印刷されていますが、トルク係数値は無次元なので単位を付けていません。軸力比と ±2 標準偏差の範囲は当サイトの換算です。

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めっき高力ボルトの引合いでは、等級、径と長さ、予定の締付け方法、ロットごとのトルク係数値の証明書の要否を書いてください。

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