スペーサーを入れてもハブボルトを替えなかった:脱輪車のホイールナットはかみ合い 2〜3 山、ナットのねじ山がコイル状でボルトに残っていた
ハブとホイールのあいだにスペーサーを挟み、ボルトの長さを変えなければ、ナットがかみ合える長さはおおよそスペーサーの厚さぶん短くなります。三重県警察本部科学捜査研究所の戸田均氏が 2021 年に精密工学会誌に発表した事故分析に、その実例があります。脱輪した車両のホイールボルトにコイル状の金属片が付着しており、それはホイールナットのねじ部分でした。ボルトの状況から、かみ合いは 2〜3 山程度と確認されています。読了まで約 8 分。
知恵袋での質問
2025 年 5 月、Yahoo!知恵袋に「ホイールスペーサーは危険とよく聞くが、危険な体験をした人はどのような使い方をしていたのか」という質問が投稿されました。 閲覧は 2,645 件、回答は 9 件です。
1 ページ目の回答には、次のような経験談が並んでいます。ボルトの長さを変えずにスペーサーを入れ、ナットがしっかりかんでいない状態で使うのは危険だという指摘。 10 mm のスペーサーが走行中に割れ、ナットが緩んだ状態になってホイールがずれ、車高調がすべて曲がったという体験。 知人の薄いアルミ製スペーサーがドリフト走行で割れ、タイヤが脱落したという話。 スペーサーでボルトが実質短くなるのでロングハブボルトに打ち替えるのが確実だ、という回答もありました。
台湾の掲示板 PTT でも、2011 年に同じ趣旨の質問がありました。返信のなかに「ボルトは長いものにするか、元のボルトが十分深くかんでいることを確かめるべき」という意見があります。
どちらの議論でも「かみ合いが浅いと危ない」とは言われていますが、何山あればよいのか、浅いとどう壊れるのかは書かれていません。 掲示板の体験談は検証できません。次に紹介する事例は、鑑識による調査で、写真と判断の根拠が示されています。
論文にある 1 台の事故車両
戸田均氏の「ねじ締結体の事故分析」(精密工学会誌 87 巻 4 号、2021 年)は、科学捜査研究所が扱ったねじ締結体の事故事例をまとめた報告です。 2.2 節「異物の挟み込みによる事故」の冒頭で、締結体に設計と異なるものが挟み込まれると、十分な締結力が得られない場合と、締結に必要な長さを確保できなくなる場合があると述べています。 ホイールスペーサーの事例は後者にあたります。
| 確認された事実 | 論文の判断 |
|---|---|
| 車輪が脱落し、ホイールボルトにコイル状の金属片が付着(図 9) | 金属片はホイールナットのねじ部分。ナットのストリッピングにより車輪が脱落したと判断 |
| ホイールボルトの状況(図 10) | ボルトとナットは 2〜3 山程度しかかみ合っていなかった |
| スペーサーも車輪とともに脱落していた | ハブに残る痕跡とホイール内側の形状が異なることから、ハブとホイールのあいだにスペーサーが取り付けられていたと判断(図 11) |
| ボルト長さ | ボルトの長さを変えずにスペーサーを使用していたことが、かみ合いがほとんどなかった原因 |
論文はまず、通常に組み合わされたホイールボルトとナットでストリッピングが起きることは考えにくい、としています。 本件ではかみ合い長さが短くなっていました。かみ合いが少ないと、かみ合っているねじ山に過大な荷重がかかり、ねじ山が破断することは十分に考えられる、というのが論文の説明です。
スペーサーも脱落した車輪から外れており、最終的に見つかったかどうかは論文に書かれていません。ハブに残る痕跡とホイール内側の形状を比べて、「ここに何かが挟まっていた」と判断されています。
山数が減るとなぜねじ山がせん断されるか
純正の組み合わせでナットがかみ合える長さは、ハブ取付面からのボルトの突き出し量から、ホイール取付部の厚さを引いた残りです。 スペーサーを挟むとその厚さが加わり、ボルトが同じ長さのままなら、増えた厚さはナットのかみ合い長さから差し引かれます。 これは当サイトの幾何的な推論で、ボルト・ホイール・ナットを替えておらず、ナットがもともと自身の長さや袋ナットの底で制限されていない場合の話です。 論文が確認しているのは本件でかみ合い長さが短くなっていたことで、この換算は示していません。
数字で見てみます。ピッチを 1.5 mm と仮定すると、2〜3 山はかみ合い長さ 3〜4.5 mm 程度です。 10 mm のスペーサーを入れると、ナットのねじ込み回数は約 6.7 回転減ります。 これは当サイトの計算例で、論文には事故車両のねじの呼びもスペーサーの厚さも記載されていません。
論文は、かみ合いが少ないと、かみ合っているねじ山に過大な荷重がかかるとしています。 また、かみ合いが十分な締結体でも、荷重は各山に均等には分かれず、最初の数山が多く負担します (これはこの論文の内容ではなく、各モデルの推定を当サイトの最初の数山がいちばん多く受けるにまとめています)。 残りが 2〜3 山になれば、分担できる山がそもそも少なく、1 山あたりのせん断荷重は上がります。 論文は、ボルトに残ったコイル状の金属片をナットのねじ部分と判断しています。 どちら側が壊れたかの見分け方はねじがなめた:壊れたのはどちら側かをご覧ください。
何山あれば足りるかは、論文には示されていません。単一の事故の鑑識であって試験ではないためです。 必要なかみ合い長さの考え方はかみ合い長さはどれだけ要るかで、 「何山」「何倍径」という規則がそれぞれ前提を隠していることは最小かみ合い長さの数字が人によって違う理由で説明しています。 ホイールナットについては、自動車メーカーまたはナットメーカーの指定に従ってください。
スペーサーが割れると締結が完全に失われる
論文はこの節の最後に、もう一つのリスクを挙げています。スペーサーが破損した場合、ホイールナットの締結は完全に緩んだ状態になります。 論文が書いているのはこの結果だけです。当サイトの解釈では、ナットはホイールを押さえ、ホイールはスペーサーを押さえているので、スペーサーが割れて挟まれていた層が支えにならなくなれば、ナットの締結も失われます。
知恵袋の「10 mm のスペーサーが走行中に割れてナットが緩んだ状態になった」という回答は、この結果を述べたものと読めます。 検証できない体験談ですが、論文が示す機構と矛盾しません。
論文は、スペーサーは適正に使用すれば保安基準を満たすものだとも明記しています(保安基準の条文は当サイトでは確認していません)。 問題は使い方であり、部品を挟み込むことでかみ合い長さが短くなり、ストリッピングや緩みが起きやすくなる、というのが同節の結論です。
同じ論文には、ジェットコースターで初期の締結力不足からボルトが脱落した事例と、大型車のホイールボルトが緩んだ状態で折損した事例の分析も載っています。 そちらは別の機構で、当サイトではタイヤ交換後の増し締めは何のためか:軸力は最初の数周で落ち、緩んだホイールボルトが先に折れるとして別にまとめています。
スペーサーを入れる前と後に確認できること
論文には点検手順は書かれていません。以下は当サイトが「スペーサーの厚さがかみ合い長さから引かれる」という幾何関係から整理した確認方法で、論文で検証されたものではなく、自動車メーカーの手順に代わるものでもありません。
- 純正状態の回転数を数える。 スペーサーなしで、ナットを手で回して座面がホイールに当たるまでの回転数を数えます。ナットは 1 回転で 1 ピッチ進むので、回転数がおおよそのかみ合い山数です。これを純正状態の目安として、比較の基準にします。
- スペーサーを入れてもう一度数える。 同じく手で座面が当たるまで回し、回転数が減ったぶんだけ、おおよそかみ合いが減っています。純正より明らかに少ないときは、トルクレンチの「カチッ」だけで締結を判断しないでください。 トルクレンチが測るのは抵抗で、何山かんでいるかは測れません(逆の錯覚の例はトルクレンチは抵抗を測るが、その出どころは分からない)。
- ボルト先端が見えるなら見る。 貫通ナットならナット内のボルト先端の位置が見えます。袋ナットでは見えないため、まず上の回転数で大まかに比べ、疑わしければ外して寸法を測ります。
- 足りなければロングハブボルトに替える。 替えるボルトは純正と呼び径、ピッチ、座面形状が同じで、強度区分が確認できるものにします。この点は論文の範囲外で、当サイトの一般的な助言です。 PTT の返信にあったワイドトレッドスペーサー(ボルト付きの変換アダプター)は、かみ合いを 2 組のねじに分けるもので、当サイトとしては両方を個別に確認することを勧めます。論文はこの形式を扱っていません。
- コイル状の金属片が出てきたら交換する。 ボルトにコイル状の金属が残っているのは、ナットのめねじがせん断された跡である可能性が高いです。当サイトとしては、そのナットは再使用せず、ボルトのねじ山も損傷がないか確認することを勧めます。
- タイヤ交換のたびにスペーサーを見る。 論文によればスペーサーが割れるとナットの締結は完全に緩むので、当サイトとしては脱着のたびに割れや変形がないか確認することを勧めます。
このページから言えないこと
これは 1 件の事故の鑑識報告で、試験ではありません。かみ合い山数とストリッピング荷重の関係を示す曲線はなく、 車種、ボルトの呼び、スペーサーの厚さと材質、締付けトルク、走行距離も記載されていません。 「2〜3 山程度」は論文が「ボルトの状況から」確認した程度で、判断や測定の方法は書かれていません。 ストリッピングによる脱輪も論文の判断で、管理された試験で示された唯一の原因ではありません。 したがって、何山以下なら必ずなめる、何山以上なら安全だとは言えず、何ミリのスペーサーまで純正ボルトでよいとも言えません。 ワイドトレッドスペーサーの安全性は論文の範囲外です。日本の保安基準の条文と台湾の法規は、当サイトでは確認していません。掲示板の回答は匿名の体験談で、質問者たちがどう語っているかを示すためだけに使っています。
この記事は手順 2、ねじを扱います。全体の順序は相手材、ねじ、頭部、駆動部、表面処理、書類で、これを崩すと微調整ではなく手直しになる理由はねじの決め方にあります。
よくある質問
スペーサーを入れたら必ずロングハブボルトに替えるべきですか?
スペーサーの厚さを差し引いたあとに、ナットのかみ合いがどれだけ残るか次第です。戸田(2021)の事例では、ボルトを替えずにスペーサーを使った車両のナットは 2〜3 山程度しかかみ合っておらず、ナットのストリッピングにより脱輪したと判断されています。当サイトとしては、手でナットを回し、スペーサーの有無で回転数を比べる方法を初歩的な確認として勧めます。
ボルトにばねのような金属が巻き付いていました。これは何ですか?
ナットのめねじがせん断されて残ったものである可能性が高いです。論文の事故車両でも、ホイールボルトに付着したコイル状の金属片はホイールナットのねじ部分と判断されました。当サイトとしては、そのナットは再使用しないことを勧めます。
ホイールナットは何山かみ合えば十分ですか?
論文には数値はありません。1 件の事故事例で、試験曲線がないためです。一般的な工学上、必要なかみ合い長さは材料とねじの仕様で決まるので、ホイールナットは自動車メーカーまたはナットメーカーの指定に従ってください。
スペーサー自体にはどんな問題がありますか?
論文によると、スペーサーが破損するとナットの締結は完全に緩んだ状態になります。当サイトの解釈では、挟まれていた層が支えにならなくなるためです。タイヤ交換時に割れがないか確認してください。
参考資料
- 戸田均(2021)— ねじ締結体の事故分析、精密工学会誌 87(4):345–348(J-STAGE 全文)
- Yahoo!知恵袋(2025-05-30)— ホイールスペーサーについて
- PTT CAR-TUNING(2011-11-16)— [問題] 輪距墊片&加長螺絲~安全嗎?(中国語)
- かみ合い長さはどれだけ要るか:ねじを先に壊し、めねじを壊さない
- 最小かみ合い長さの数字が、人によって違う理由
- タイヤ交換後の増し締めは何のためか:軸力は最初の数周で落ち、緩んだホイールボルトが先に折れる
論文は全文を当サイトで読み、事例の記述と「2〜3 山程度」は 2.2.2 節と図 9〜図 11 の説明どおりです。ピッチ 1.5 mm での換算は当サイトの計算例で、論文に事故車両のねじの仕様はありません。知恵袋は 1 ページ目の回答 6 件のみ読んでいます。
お問い合わせ
スペーサー併用のロングハブボルトやナットが必要な場合は、純正ボルトの呼び径、ピッチ、座面形状とスペーサーの厚さをお知らせください。その条件で選択肢をご案内します。
お見積り依頼
品名と数量をお知らせください。可否、納期、価格をご返信します。
直接メールでも承ります sales@tigerfasteners.com