くぎの周りの黒いしみは鉄とタンニンの反応かもしれない:無処理の木材は含水率 15〜18% 未満なら金属は腐食しない
2011 年 10 月、ツーバイフォーの新築を建てていた方が Yahoo!知恵袋に質問しました。構造用合板を留めたくぎの部分から「黒っぽいシミが出ている」、さびなのか、広がらないか、という内容です。現場監督の答えは、合板の接着剤が雨に当たると黒くなる、でした。この記事では米国農務省林産物研究所(FPL)の公開資料二つから答えます。タンニンを含む木材では鉄とタンニンが直ちに反応して青黒くなり、タンニンの少ない木材では鉄がさびるだけで、褐色のしみが数か月から数年かけてできます。文面だけでは、質問の家がどちらかは決められません。くぎの腐食について、原論文が最も重要な環境条件とするのは木材の含水率で、しきい値は 15〜18% 前後、それ未満では埋め込まれた金属は腐食しません。読了まで約 8 分。
質問の内容
投稿は 2011 年 10 月 23 日、カテゴリは「新築一戸建て」です。ツーバイフォー工法で構造用合板を留めているくぎの部分から黒っぽいしみが出ていて、 さびなら繁殖して広がらないか心配だ、という相談でした。現場監督は接着剤が雨に当たると黒くなると説明し、質問者は補足で、雨の日は養生していたが全く濡れていないわけではないと書いています。
回答は二件です。ベストアンサーは化学反応による「アク」で構造上の問題はないとし、しっくいのアルカリが木に垂れて黒くなる現象を例に挙げました。 もう一件は監督の説明を支持し、くぎのさびなら普通は赤さびだと指摘しています。
当サイトの見方では、二つの回答はつなげて読むと筋が通ります。赤さびに見えないのはその通りですが、しみはくぎの周りに出ているので、くぎの鉄が関わっている可能性が高いと考えます。位置からの推測で、分析はされていません。 以下、「黒いものは何の可能性があるか」と「くぎは傷むのか」を順に見ます。
黒と褐色は別の反応です
FPL の『Wood Handbook』(FPL-GTR-190、2010 年)第 16 章には、鉄汚染(iron stain)の節があります。木材の鉄汚染は二通りで、 締結材そのものがさびる場合と、鉄が木材中のタンニンと反応する場合です。見た目も、出るまでの時間も違います。
| 項目 | タンニンの少ない木材 | タンニンを含む木材 |
|---|---|---|
| 反応 | 鉄がさびる | 鉄とタンニンが反応 |
| 色 | 締結材の周りが褐色 | 青黒色 |
| 出るまで | 数か月から数年 | 直ちに |
| 付随する影響 | 周辺の木材がわずかに劣化(wood sickness) | 記載なし |
タンニンの多い樹種として、ハンドブックはシーダー類、オーク、レッドウッドを挙げています。鉄の出どころで最も多いのは鋼製の締結材で、 スチールウールやワイヤブラシで木材を清掃した後に残る鉄粉でも起こります。品質の低い亜鉛めっきくぎは、めっきのないくぎと同じようにさびやすく、しみの原因になるとされています。
質問の状況は、黒っぽい、くぎの周り、施工中に雨に濡れたことがある、の三点です。色と位置は表の右側に近いものの、しみがいつ出たかは書かれておらず、写真もありません。鉄とタンニンの反応だったとすれば、ベストアンサーの「化学反応」という見立ては方向として合っていて、足りないのは鉄の側です。
青黒い沈殿はタンニン鉄
FPL の研究技術者 Samuel Zelinka は、2014 年に「Corrosion of Metals in Wood Products」を書いています。InTech の書籍 『Developments in Corrosion Protection』の第 23 章で、第 7 節が木材の化学成分と腐食の関係をまとめています。
一つの樹種に 700 種類以上の抽出成分があり得ますが、Zelinka と Stone が文献を調べたところ、埋め込まれた金属の腐食に影響すると報告されたのは三種類だけでした。 低分子の有機酸(酢酸、ぎ酸)、タンニン(広くはポリフェノール)、パルプ化の過程でできるカテコールやピロガロールです。無垢の木材について文献に出てくるのは前の二つだけです。
Zelinka と Stone は、pH とタンニン量が対照的になる四樹種の水抽出液を作りました。
| 樹種 | pH | タンニン |
|---|---|---|
| マツ | 低い | 少ない |
| オーク | 低い | 多い |
| ニレ | 高い | 少ない |
| ニセアカシア | 高い | 多い |
抽出液に浸した鋼の表面には青黒い沈殿ができ、著者はタンニン鉄(iron-tannate)の不動態層ができた可能性を示すと見ています。ただし章の中で沈殿の組成を直接確かめてはおらず、無垢材での保護効果も測っていません。 さらにタンニン量と pH を調整すると、pH が同じならタンニンが多いほど腐食速度は低く、タンニン量が同じなら pH が低いほど腐食速度は高くなりました。
この抽出液試験では、pH が同じならタンニンの多い抽出液のほうが腐食速度はむしろ低めでした。青黒い色が見えれば腐食が遅い、という判定ができるわけではありません。原論文は、抽出液での絶対値は無垢材より高く、 一般的な傾向は同じと見込まれる、と断っています。無垢材の中でタンニン鉄がくぎを守るかどうかは測られていません。
くぎが傷むかは、まず含水率を見る
色で分かるのは「何が起きたか」までです。質問者が本当に気にしていたのは、くぎが腐っていくかどうかでした。Zelinka の章の第 5 節は、 木材に埋め込まれた金属の腐食を支配する最も重要な環境条件は木材の含水率(MC、水の質量÷全乾質量)だと書いています。
しきい値は 含水率 15〜18% です。これ未満では埋め込まれた金属は腐食せず、超えると含水率とともに腐食速度が上がり、 繊維飽和点(多くの樹種で約 30%)付近かそれ以上で最大値に達して頭打ちになります。結論の節は「木材の含水率を 18% 未満に保つ」とまとめ、 含水率 20% 前後で腐食速度が急に変わるとも書いています。一方で、含水率と腐食の関係の研究は「very little」だとも認めています。
なぜこの値なのか。第 2 節によると、繊維飽和点より下では水は細胞壁内の結合水としてだけ存在しますが、結合水もイオンを溶かして運べます。 Zelinka らは木材のイオン伝導がパーコレーション現象で、含水率約 16% でイオンの連続した通り道ができることを示しました。 著者はこのしきい値を腐食のしきい値と結び付けており、結論の節でも木材中の金属の腐食は水溶液系の反応だと書いています。
湿度に置き換えると、含水率 16% は相対湿度 75〜85% に相当すると原論文は引用しています。これは目安で、含水率と湿度の対応は樹種や木材の過去の乾湿履歴で変わります。長期暴露試験でも、相対湿度 30% と 65% では腐食速度は実質ゼロ、 75% でかろうじて測れる程度、90% と飽和空気ではっきり増えました。
| 含水率 | 原論文の記述 |
|---|---|
| 15〜18% 未満 | 埋め込まれた金属は腐食しない |
| 約 16% | イオン伝導の連続経路ができる(相対湿度約 75〜85%) |
| 約 20% | 腐食速度が急に変わる |
| 約 30%(繊維飽和点) | 腐食速度が最大付近で頭打ち |
この記事では、このしきい値を無処理の木材、つまり構造用合板や一般の枠組材のように防腐剤を注入していない木材に限って使います。原論文の含水率の根拠には CCA 処理材の電気化学測定も含まれています(ヒステリシスがあり、試験片が平衡に達していなかった可能性があります)。 ただ、銅系防腐剤を加圧注入した処理材では、銅イオンの還原という段階が加わり、同じ章の一覧表では相対湿度 75% でも処理材中の鋼に年 1〜3 µm の腐食が記録されているため、この記事ではしきい値を処理材全般には広げません。 処理材については防腐処理木材の中の溶融亜鉛めっきをご覧ください。
無処理材でも、亜鉛めっきが強いとは限りません
第 6 節には直感に反する結果があります。木材の中では、亜鉛めっき鋼のほうが炭素鋼より速く腐食します。大気中の亜鉛は塩基性炭酸亜鉛などの保護層を作るので鋼より長持ちしますが、 木材中のくぎを X 線回折で調べると、炭酸亜鉛(smithsonite)は見られず、塩基性炭酸亜鉛は一部の試料に出ただけでした。著者はこれを、木材中では大気中のような有効な不動態層ができていないためだと説明しています。
一覧表には無処理材の行があります。27 °C、相対湿度 100%、1 年で、炭素鋼は年 0.7 µm、溶融亜鉛めっきは年 4.4 µm でした。 相対湿度 100% という試験条件での値で、乾いた室内の話ではありません。100% RH は木材の含水率の上限という意味でもなく、木材は全乾質量の 200% を超える水を含むことがあります。
めっきが無意味という意味ではありません。ハンドブックも、亜鉛めっきを使うなら ASTM A153 に適合する溶融亜鉛めっきに限ると書いています。 言えるのは、湿った木材の中では大気中の耐食性の順位をそのまま持ち込めない、ということです。原論文の結論は「Corrosion in wood is not atmospheric corrosion」です。 めっきとステンレスの選び方は亜鉛めっきかステンレスかにまとめています。
現場で黒いしみを見たときの判断
- 色と出方を見る。ハンドブックの区別では、タンニンを含む木材は鉄に触れると直ちに青黒くなり、タンニンの少ない木材では鉄がさびて褐色のしみが数か月から数年かけて出ます。これは手がかりにとどまり、接着剤やかび、ほかの原因による変色は色だけでは除外できません。
- 木材の含水率を測る。外壁や内装でふさぐ前の管理目標として原論文が挙げるのは 18% 未満です。当サイトとしては、しきい値の範囲の下限にあたる 15% 未満まで乾かすことを勧めますが、これは原論文の基準ではありません。
- 水の入り口を探す。第 11 節によると、繊維方向の水分移動は半径方向・接線方向の 10 倍以上速く、木口が水に触れると部材全体が吸水し、納まりの悪い接合部には水がたまります。当サイトとしては、くぎの近くの木口と継ぎ目を先に確認することを勧めます。
- しみ抜きをするかは、見た目と塗装の条件で決めます。ハンドブックの方法はしゅう酸の飽和溶液(熱湯 4 L にしゅう酸 0.5 kg)で、処理後はぬるま湯で洗い流します。鉄がわずかでも残ると再発します。しゅう酸は有毒だとハンドブックも注意しており、手袋と保護めがねを着け、皮膚や目に触れないようにします。塗膜の下のしみは塗膜を除いてからでないと取れません。不透明塗装の面なら、くぎ頭を沈めてコーキングし、部分下塗りと上塗りで隠す方法があり、素地仕上げの面は恒久的に直すのが難しいとされています。
- タンニンの多い樹種を素地仕上げにするなら、締結材はステンレス、少なくとも溶融亜鉛めっきにします。こうした木材にスチールウールやワイヤブラシは使いません。
ベストアンサーは、仕上がれば隠れるし構造上問題はないだろうと書いていますが、回答者の見立てで、検査の結果ではありません。色だけでは構造の安全性は判断できず、確かめるべきは木材の含水率、くぎの腐食の程度、水が入り続けていないかです。 くぎやねじと木材の取り合い、たとえば下穴の樹種による違いは下穴の規則は樹種を名指しし、谷径から測るをご覧ください。
このページから言えないこと
2011 年の質問の家のしみがタンニン鉄だったとは断定できません。写真がなく、合板の樹種やタンニン量も不明で、監督の言う接着剤の黒変は二つの資料のどちらも扱っておらず、当サイトでは否定できません。
15〜18% のしきい値は、この記事では無処理の木材にだけ当てはめています。これは当サイトが広げないと決めたためで、原論文の根拠には CCA 処理材も含まれます。原論文は含水率と腐食の研究が少ないと認めており、詳しい曲線にはヒステリシスもあります。 含水率約 16% のイオン経路と腐食のしきい値の結び付きは著者による関連付けで、直接の証明ではありません。含水率 16% が相対湿度 75〜85% に当たるというのも目安です。 青黒い沈殿がタンニン鉄の不動態層だという点は、著者も「suggesting」と書くにとどめ、直接確かめていません。タンニンが多いほど腐食が遅いという結果は抽出液試験のもので、無垢材での程度は測られていません。どちらの資料も、木材中のくぎの寿命年数は示していません。
この記事は手順 1、相手材を扱います。全体の順序は相手材、ねじ、頭部、駆動部、表面処理、書類で、これを崩すと微調整ではなく手直しになる理由はねじの決め方にあります。
よくある質問
木材のくぎの周りが黒くなるのはさびですか?
必ずしもそうではありません。『Wood Handbook』第 16 章によると、タンニンを含む木材は鉄に触れると直ちに青黒くなり、タンニンの少ない木材で鉄がさびると褐色で、数か月から数年かけて出ます。色は手がかりにすぎず、色だけで原因は決められません。
木材の含水率が何%を超えるとくぎは腐食し始めますか?
Zelinka(2014)がまとめたしきい値は含水率 15〜18% です。これ未満では無処理の木材に埋め込まれた金属は腐食せず、超えると含水率とともに腐食速度が上がり、20% 前後で急に変わります。この記事ではこの値を無処理の木材にだけ当てはめています。
くぎの周りの黒いしみは落とせますか?
『Wood Handbook』はしゅう酸を勧めています。飽和溶液は熱湯 4 L にしゅう酸 0.5 kg で、処理後はぬるま湯で洗います。しゅう酸は有毒なので、手袋と保護めがねを着けて扱います。鉄がわずかでも残ると再発し、塗膜の下にあるしみは塗膜を除いてから処理します。
木材の中では亜鉛めっきくぎのほうが鉄くぎより長持ちしますか?
必ずしもそうではありません。Zelinka(2014)は、木材中では亜鉛めっき鋼のほうが炭素鋼より速く腐食するとしており、無処理材・相対湿度 100% では炭素鋼が年 0.7 µm、溶融亜鉛めっきが年 4.4 µm でした。これは相対湿度 100% の試験条件での値です。ハンドブックは使うなら ASTM A153 の溶融亜鉛めっきを勧めています。
参考資料
- Zelinka SL(2014)—— Corrosion of Metals in Wood Products、『Developments in Corrosion Protection』第 23 章、InTech(書籍の一章、オープンアクセス)
- Williams RS(2010)—— Finishing of Wood、Wood Handbook(FPL-GTR-190)第 16 章、USDA Forest Products Laboratory
- Yahoo!知恵袋(2011-10-23)—— これは、何のシミでしょうか?
- 防腐処理木材の中では、溶融亜鉛めっきが炭素鋼より速く減る
- 亜鉛めっきかステンレスか:選んでいるのは、実は別々の二つの問いです
Zelinka の章と『Wood Handbook』の鉄汚染の節は全文を読み、含水率のしきい値、相対湿度との対応、四樹種の pH とタンニンの組み合わせ、腐食速度、しゅう酸の濃度は原文どおりです。原論文は本文と図のキャプションで図番号が入れ替わっているため、図番号は引用していません。知恵袋の質問は一句だけ短く引用し、ほかは要約です。
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